2023年の靴

「靴を買うのは1年に1足」というルールを設けたのは2020年から。

 

それまではイギリスの靴を中心に買い漁っていた時期があった。例えばチャーチなら今でも6足所有し好んで履いている。

という具合に革靴が好きなのだが、普段の仕事では基本的には支給された作業靴を着用するため、好きな靴を履けるのは休日のみ。

広くない家の広くない靴箱の肥やしとなる状況を避けるべく「1年1足」のルールを自らに課したのだ。

 

そして去年の11月に靴を1足買った。2023年の1足。

買ったと言ってもオーダーメイド。足の形を計測し木型から作成するものをフルオーダーとするのであれば、今回は決められたベースモデルが存在するパターンオーダー。

 

とは言っても、今回依頼したお店では選べるモデルの種類が10種類以上と豊富で、アッパーやソール等の素材を選ぶことは勿論、木型も2種類から選ぶことができ、更に素材となる革を自分の好きな色に染めるシステムがあるのだ。まさに自分だけの1足が作れる、比較的自由度の高いオーダーが可能であった。

 

では、どんな靴を作ろうか。「作るなら今年だろう」というイメージを1つ持っていた。

 

日頃、Jリーグサンフレッチェ広島を応援していてAwayのスタジアムによく足を運ぶ。日帰りで北関東から関西に行ったりもするくらいに、立派なサポーターだと自負している。

これはもう宗教に近いかもしれないが、贔屓チームを応援するという行為は時期により熱量の違いはあれど一生続くものと思う。

このライフワークと呼べるスタジアム観戦に魂を込めた靴があれば、それは素晴らしいことではないか。そのような思いで2023年の靴をオーダーした。

 

「作るなら今年」としたのは、その広島に関わる全ての人の念願であった新スタジアムが遂に完成し、新スタジアムを使用する1年目のシーズンがまもなく始まる。スタジアム1年目にこの靴の1年目を合わせたい。そんな思いからだ。

 

 

鮮やかな青紫は広島カラー、アッパーはアノネイ社の1級カーフとリザードのコンビ。ゴールドの尾錠がアクセントになり、まるでユニフォームの胸に輝く星のようだ。デザインはモンクストラップ×ウイングチップ。(昔欲しかったチャーチのピカデリーを思い出し再び思いを馳せる)

 

色については、チームのエンブレムやユニフォームの写真を見てもらい、ナチュラルな革をプロの手で染色。

写真では分かりづらいが紫の濃淡が美しく、ヴァンプ部分は少し色を薄めてあったり、逆に紺色を強く出した部分があったりと、1色だが1色ではない。ミュージアムカーフな雰囲気すらある。ひたすら美しい。

”ウイング”チップは今回譲れない部分であった。新スタジアムの建設モチーフの一つに「平和」がある。スタジアムの観客席には平和の象徴としての「翼」をイメージしたアーチ(屋根)が掛かる。

であれば靴にも翼が必要となってくる。理屈が通っているかは分からないが(多分意味不明だが)、こういう遊び心で私の気分が上がるのであればそれでいい。「このウイングチップのデザイン、実はピースウイングと掛けてるんですよね」ともし誰かに聞かれたら顔は冷静に内心ではドヤ顔で話したい。

またリザードを用いることは当初予定していなかった。ただしつま先の保護を目的に傷に強い革を使いたいという思いはあった。興奮のあまりつま先をコンクリートブスケツかもしれないから。

当初はシュリンクやエンボス、裏革などを検討していたがマッチするものがなく、そんな中で「リザードも同色で染めれます」という提案を頂き、少し考え決めた。

つま先のタフさは増し、同色だが革の切替がより明確になり、リザード特有のエレガントさを纏う靴になったと思う。

最後に形についても触れておく。

ウェルトも付けずエレガント路線に振り切りたいと考えていたので、イタリア靴のようなシュッとした形、つまりウエスト部分からつま先に掛けて細くなる形を選んだ。

形・素材・色が相まって出来上がった靴と対面したときはその美しさに冷静に興奮したのを覚えている。本当にイメージ以上のものを作ってくれたお店には感謝したい。

 

他にもマルティンソールが格好良いだとか、ヒールのみラバーを貼って滑り難くしたとか、ゴールドのスチール付けて尾錠の色とお揃いにしたりだとか、オーダーできる箇所1つ1つに理由を付けて納得した形で選んでいくのもオーダーの醍醐味という話もあったりするが、長くなりそうなのでお店について少々書く。

 

目黒にある靴好きの中では有名なお店で検索すれば容易に探せるだろう。取り扱っている革が豊富で、後染めのフリーカラーシステムは自由自在に好きな色を載せることができることは繰り返しとなるが書いておく。

今回の靴を下ろしてまだ数回しか着用していないため、履き心地について書くことは避けたが、既に土踏まずが気持ち良くフィットする感覚があり問題無いだろう、馴染むのが待ち遠しい。私の場合は左足だけ補正を入れジャストフィットを追求できたのも良かった。

また上記のようなサービスを受けられてコストパフォーマンスも高い。オーダーの自由度が高く迷いそうな方はお店のHPを見てある程度イメージしてからの方が良いのかもしれない。

 

最後になるが、先日新スタジアムの開業記念商品としてNike Air Force1とSanfrecceのコラボスニーカーが販売され即日完売となった。ナイキのスニーカーはいつも人気なので売り切れに驚きは無いが、新しい靴を履いて、新しいスタジアムでチームと共に歩みたい。そんな私みたいな思いの方々が少なからずいるのかもしれない。

「良い靴は良い場所に連れて行ってくれる」

この先、チームにどんな物語が待っているのか。行く先がたとえ良い場所ではなくても、私はスタジアムで目撃者となり続けたいと思う。この靴を履いてね。